Fundamental aina を試聴しました

今月初旬Fundamental鈴木社長から「ぜひとも聴いて欲しい。」という電話があり、雑誌取材撮影の帰りついでの鈴木社長が直々に新製品の「aina」を持参され、僅かな時間でしたがFundamental ZEROシリーズ インテグレーテッド・アンプ ”aina”(アイナ)を試聴させて頂きました。

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ハワイ語で “大地” を意味する”aina”は鈴木社長がこだわるアースとダブルミーニングでもあるそうで、
アンプトータルとしての平均残留雑音は7μV(STEREO使用時 Aカーブ補正)以下に抑えられています。

最初に鈴木社長がまず話されたのは、「いつかコスト度外視で今やりたいことを全て盛り込んだアンプを出したいと思っていたのですが、まさにこの”aina”でそれをやってみました。」とのことで、そうしたコンセプトのもとコストのことは考えず試作を何度も行い製作したため、実際定価的にはかなり高額になってしまったとのことでした。

鈴木社長と一緒に設置を手伝いながら解説頂きましたが、導電率の高い純アルミ材1070(純度99.7%)のアルミで筐体を使い、グランドインピーダンス、電位をゼロにすることを目指したそうで、世界ではおそらくまだ誰もやったことがないであろう設計手法とのことです。
実際1070アルミ材は電気、熱伝導性、耐食性に優れているとはいえ、他のアルミ合金に比べ非常に柔らかく、粘り気の強い材質のため切削性がすこぶる悪いにもかかわらず、その素材をインゴットから削り出し、継ぎ目のない完全なワンピース構造で成形する技術は特筆もので、それができる加工業者もかなり限られるそうです。

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Fundamental社らしい徹底した信号最短経路設計と、清々しいほど綺麗に整然と並ぶ高品位パーツ類。 音質面から空気層を確保するため、贅沢にごっそり肉抜きされたアルミインゴットの内部

設置後に筐体構造を見ながら解説を受けましたが、一見して電源部ともに大胆に切削加工されていることが分かり、内部構造的にも相当なこだわりと切削技術の高さを感じさせるものでした。しかも内部コンストラクションも音に影響するため、空間性や音色などを考慮していくと内部にある程度空気層を持たせるほうが良い結果が得られたことから、さらに切削加工を施したとのことですが、音を聴きがらその肉抜き量をカットアンドトライで決めていっていたそうで、それでは開発コストが高くなってしまうのもうなづけます。

また、天板を1点留めにすることで、あたかも天板が存在しないかのように、開放的で伸びやかなサウンドを実現しました。

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ヒートシンクまでワンピース削り出しという超贅沢な部材の使い方。天板は音質的な面を考慮し
手前の1点でのみ固定。

音質ですが、一聴してすぐに感じたことは「これまで聴いたことがないような音」ということで、アース電位をゼロに近づける設計を徹底すると、このような静謐な音になるのだというインパクトでした。
よく他メーカーのアンプや特定のモデル、また真空管やトランジスター、ハイブリッド設計のあのアンプの音の感じに似ているかな、ということがありますが、この”aina”についてはそうした似た音が思い浮かばず、これまで聴いたことがない異世界の音を聴くかのような体験です。

刺激音的な要素はほぼ皆無で、トランジスターアンプであるにもかかわらず奇数次高調波歪みがまるで感じられず、さらにずば抜けたSNの良さがダイレクトに伝わってきます。
決して人工的ではない有機的な音の一粒一粒が微粒子レベルで音楽を織りなしているような感じで、微粒な石英がホワイトヘブン・ビーチの勝景を成しているのと同じような印象があります。

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カーブ特性、操作感もこの上なく精良なアッテネーターと、放送局や通信局などの納入実績が多く、
高品質で安定性も高い東京光音電波製カスタムロータリースイッチを贅沢に採用したセレクター

音が鳴り出す直前の静寂感も圧倒的で、音の余韻が消えいる最後の最後まで明確に知覚できる驚異的な再現性から、自然ともっとボリューム(実際はアッテネーター)を上げたい欲求に駆られます。

実際ボリュームを上げてみると、もともとFundamental社のアッテネーターは高精度で絶妙なステップによるカーブ設計で秀抜なことと、筐体サイズ目いっぱいに収められた強力な電源部との相乗効果もあるのでしょうが、アッテネーターの9~12時位置あたりからのドライブ感は、最先端技術で電子制御されたハイパースポーツカーの高性能エンジンが超滑らかに回転しパワーが吹き上がるかのようで、不安定さを伴わずウーファー振幅による逆気電力を敏速にグリップし、音像や定位バランスを崩さすことなく求めた音量にビシッと定めてくるのも秀逸です。

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本体リア部。入力はバランス2系統、アンバラ1系統

試聴時は比較的低感度のスピーカーだったので、あえてそうしたスピーカーが苦手なBGM程度の控えめなボリュームで鳴らしてみましたが、まるで弩級アンプで小さめの音量で鳴らしているかのようで、微粒子的な音の表現は保持され、音量を上げていたときの情報量や空間性も損なわず、全体質感をそのままにただ音量だけを減衰させた自己相似性を維持するかのような鳴り方で、糅てて加えて小音量でもスタティックかつダイナミックさもしっかり聴かせてくる再現力には舌を巻きます。

シンプルなシングルプッシュプルにも関わらず、出力は32W×2(8Ω)、60W×2(4Ω)、2Ωでは100W×2動作まで保証されており、周波数特性もDC~1.6MHz(+0,-1.0dB MONO 8Ω 1W出力時)と超広帯域設計。数値から来る印象より確実に潜在的なドライブ力を秘めている感じがあります。

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やり過ぎの削り出しワンピースシャーシから出ているピラーに固定された巨大トロイダルトランス

ボリュームの大小にかかわらず、筐体サイズの印象を大きく裏切るドライブ力であるのは強力な電源部の恩恵なのでしょうが、鈴木社長によるとこのトロイダルトランスはその容量のみならず、なんとトランス用固定シャフトまでもアルミインゴットから削り出しだそうで、そのシャーシと一体となった削り出された支柱にトランスを留めるというメガキャストのような仕様にも驚愕しますが、そういうところまで突き詰めたためコストに跳ね返ってしまったとのことです。

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試聴中スタッフの一人が、あくまで音の好みは千差万別で十人十色なことは踏まえたうえで、

「この音で上がりだ、という人もいるかもしれませんね。」

と言っていましたが、その時わずかに鈴木社長が相好を崩されていました。
インテグレーテッドアンプの価格としてはイレギュラーでことは否めないものの、大型弩級システムからダウンサイジングを検討しているが音は妥協したくない方や、またサイズ的にはミニマムでまとめたいがハイエンドな音質を追求したいというニッチなニーズに嵌りそうなFundamental 「aina」でした。

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