MAGICO Mシリーズの考察

当店ではメインのリファレンスとしてMAGICOのスピーカーを常設しておりますが、最近MAGICO指名でのご試聴が増えていることから、現在のMAGICOのトップグレードクラスであるMシリーズについて、あらためて取り上げてみます。

まずM3ですが、これは評判が高かった前作Qシリーズ同様、キャビネットはアルミスケルトン構造です。 ちなみにMAGICO10周年記念プロジェクトで発売された世界限定50setの”M PRO”というモデルも同じくアルミスケルトン構造でした。

M3の内部3軸マトリックスフレームワークは、非常に剛性の高いエンクロージャーで、不要な共振や色付けを排除し、すべてのドライバーが圧倒的解像度とダイナミクスを発揮することに貢献しています。

ミッドレンジドライバーは、中域の制御、一音一音のつながり、レスポンス、表現力といった要素を強化するため、独自ポリマーで作られた専用サブエンクロージャー内で動作するよう設計されています。このミッドレンジ用ポリマー製サブエンクロージャーは最先端のシュミレーションソフトウェアにより生み出され、一切平行面を持たない形状で、その内部およびメインエンクロージャー内においても定在波の原因となりません。

ミッドレンジユニット背面からの音圧を適切にコントロールし、結果として歪み成分の測定結果およびリスニングテストにおいて過去に類をみないパフォーマンスを提示します。

さらに巨大なアルミ製フロントバッフルとリアバッフルも削り出しでカーブを描き、同じく巨大な(厚さ2インチ)アルミ製トッププレートとボトムプレートもCNC加工でエッジのない輪郭を描いています。

左はM3キャビネット内部。 右は世界限定50setだったM-pro

ドライバーのシャーシとエンクロージャーの間には、銅製ガスケットを使用し、2つの表面間の共振を拡散させ、カップリング効果を最大化します。

M3バスドライバーは、音響学、力学、電磁気学、熱的挙動に関する最新の最先端FEAシミュレーションを用いて、周波数領域と時間領域において音楽に関連する歪みを最小限に抑えるように最適化されています。

ツィーターには”MBD28 Tweeter”ダイヤモンドコート・ベリリウム振動板を採用。
これは2014年M-projectで初めて採用されたダイヤモンドコート・ベリリウム振動板で、超広い分散特性と超低歪み測定を維持しながらM3の感度とパワーハンドリング能力に合わせてカスタマイズしたネオジウムベースモーターシステムを使用しています。

ベリリウムの理論上理想的な物理的特性を活用し、ダイヤモンド皮膜の余分な重量増加を加える事なく、高帯域再生の極致に近づいたとのことで、Qシリーズのツィーターについて海外の一部ユーザーで指摘されていた、やや明るく華やかで、音量によってはややピーキーにも感じられる傾向も払拭されました。

MBD28 Tweeter ダイヤモンドコート・ベリリウム振動板

M3に搭載された新設計の6インチミッドレンジと7インチバスドライバーのコーンは”マルチウォールカーボンXGナノグラフェンと新しい独自の超剛性カーボンウィーブから製造されています。

このグラフェンは透明な膜のように極薄の素材で六角形の分子構造を持つシングルレイヤーで形成され、強度は鋼鉄の100倍、ナノグラフェンと超硬ナノテックカーボンァイバー織布を使用し、コア素材として新たな硬質発泡体を採用。両面にグラフェンを貼った超硬ナノテックカーボンファイバー織布がコア材を挟み込む合計7層の複合素材振動板になります。

これは従来のユニットと比較して、20%軽く300%の強度を達成しているとのことです。ネオジウムベース・モーターシステム/磁気回路による安定して強力な磁場は、ベンチレーションを施されたピュアチタニウム・ボイスコイルボビンの正確なピストン動作を実現し歪みを最小限に抑えます。

グラフェン振動板。MAGICOは、グラフェン素材をスピーカー振動板に用いた世界初のメーカーでもあります。

こうしたQシリーズから継承し残した側面や、M PROから新たに取り入れた構造や新パーツの採用をみると、M3はQシリーズの持つ良さと新たな技術を融合した設計のように見えます。

実際Qシリーズと比べますとM3はSNの高さ、スムーズな高域の伸び、中域も充実し豊かになり、サウンドステージの静けさ、深々とした音場の広さ、そして中低域にかけてのエネルギーとパワフルさの点で大きく進化しました。

MAGICO M3 *常設展示中

いっぽうでM6とM2は、各ユニットこそM3同様マジコ独自のグラフェン振動板、ダイヤモンドコート・ベリリウム振動板などは共通ですが、キャビネットがカーボンファイバーモノコック構造であり、ここがM3と大きく異なる点です。

左:M6のキャビネット構造 右:M2のキャビネット構造

このカーボンファイバーシェルは、かつてのMAGICO Mini2のバーチ積層キャビネットを彷彿させますが、Mシリーズではミッドドライバーとウーファドライバーを収納し、湾曲したアルミバッフルがトゥイーターを収納。フロントとリアのアルミバッフルはキャビネットを貫通するテンションロッドとボルトで取り付けられる構造になっています。

2004年に発表されたMAGICO MINI2

上述しましたようにM3はキャビネット内部がアルミのマトリックスフレーム構造となっていることから形状はファットで、M2、M6はカーボンモノコック構造でリア方向に湾曲しているため、後ろはスリムになっており、上面からみるとその違いが一目瞭然です。

左がM3、右がM2

M2は、M6で導入された構造手法と同様、3/8インチ厚のカーボンファイバーを何層にも重ねて形成されています。
F-35戦闘機の外殻に似たこの筐体構造は、機械加工や押し出し成形のアルミニウム部品と比較して、構造強度対重量比を60倍に高め、全体重量を50%削減し、内部容積を損なうことなく外寸を30%小さくすることに成功しています。

このカーボンファイバーシェルはRAMPFグループ傘下でカナダにあるアペックス・コンポジット社製で、この会社はF1レーシングカーやF-35戦闘機のモノコックを作っています。このカーボンファイバー・ハードシェルがMシリーズの音のキャラクターを特徴づけている大きな要素の一つになっているとみられます。

またM2の4つのドライバーはすべて、ドイツ・ムンドルフ社の最先端コンポーネントを使用したマジコ独自のElliptical Symmetry Crossoverトポロジー(24dB Linkwitz-Riley)を用いて音響的に統合されています。

M2の音ですが、M6と同じカーボンファイバーモノコック構造であることから、M6をそのままスケールダウンした感じで音の傾向は似ているもの、M2はユニットサイズとキャビネット容積が小さいことからキビキビとしたレスポンスながらも、スピーカーサイズを意識させない音場感と低域のパワフルさ、スピードとグリップ感も兼ね備え、このサイズのスピーカーとしては、もっともよく鳴るスピーカーといえます。

MAGICO M2  *常設展示中

M6は1cm厚の6面カーボンファイバーモノコックに3ウェイ5ドライバーを搭載し、さすがにキャビネット容積の大きさからくる雄大さとエネルギー感、スケール感が見事で、非常に聴きごたえがあるサウンドですが、スケールが大きいスピーカーでは得にくい音場表現においても3次元的に広く展開します。

また、なにより特筆すべきは中域密度が非常に濃いことで、この充実した分厚い中域は他に類を見ない表現で圧倒されるものがあります。また歪みを病的に嫌うほど全体的に極めて正確な再現性で、これだけ重量級のスピーカーでありながら軽やかに音楽を奏でてくれるので、その点では、モニタースピーカーのようなものですが、多くの真のモニターよりも理想的なモニターの形に近いと言えます。

以前展示していたM6  現在展示機はありません。

またMAGICOは数字を重視した設計哲学を貫いており、パーツ含め各テストは他社より相当厳格なテストをすると言われ、こうした特殊な構造や採用するパーツのクオリティなどを見ても、他メーカーと比べ相当コストがかかっているとみられます。

ネットワークにはハイグレードな部品が随所に使われ(この価格でこれ以上のものはないと思いますが、クロスオーバーの中にそれ自体でかなり良い時計と同じくらいの値段がする)ムンドルフ製の部品も使われ、MAGICO独自のクロスオーバートポロジー(Elliptical Symmetry Crossover topology)によってコントロールされます。

各ユニット開発には最新の有限要素解析(FEA)が用いられ、この解析方法は製品の構造または性質における潜在的な問題や既知の問題を特定して、それらの解決を目的としてバーチャル環境でのシュミレーションを行います。具体的には、複数の要素(音響、構造、電磁、温度)における挙動を包括的な単一プラットフォーム上でシュミレーションを実行します。こうして作られたネットワークは、リスニングルームにおいて最高の音楽再生を約束します。

Magicoはこれまでに、チタンサンドウィッチ・ドライバー、リングラジエーター・トゥイーター、積層バーチエンクロージャー、ナノテックカーボンファイバードライバー、ベリリウムドームトゥイーター、高剛性のアルミニウム切削エンクロージャー、そして現在のMシリーズのプラットフォームとなるグラフェンドライバー、ダイヤモンドコーティング・ベリリウムドームトゥイター、炭素繊維とアルミニウムのハイブリッドエンクロージャーなど、常にコスト度外視で新たな技術を取り入れてきておりますが、確実に現代を代表するトップクラスのハイエンドスピーカーメーカーといえるでしょう。

MAGICO Mシリーズ最高峰のM9
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