サウンド・オプチマイザー、Trinnov ST2 HiVi MK2 使用レポート

U-BOYです。

すでに多くの方が導入されているTrinnov ST2ですが、DACチップがバーブラウンからESS製になり、MK2となりました。
基本的な機能は変わっておりませんが、改めて当製品について紹介したいと思います。

高価なオーディオシステムを導入しても、「部屋の音響」という最大の壁に阻まれ、真のポテンシャルを発揮できていないケースは少なくありません。

一般的なリスニングルームは、特定の帯域でピークやディップが発生したり、左右の環境が異なることで、音像がどちらかに寄ってしまうなど、機器本来の性能が発揮できない場合があります。

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目次

サウンド・オプチマイザー「Trinnov ST2 HiVi MK2」とは?

今回、紹介するTrinnov Audio ST2-HiFi MK2(以下、ST2)は、フランス発のハイエンドプロセッサーです。オーディオシステムの最大の弱点である部屋の音響問題を、放送局や映画スタジオで世界的に評価された技術を駆使してトータルで解決する製品です。

ST2は単なるイコライザーではなく、スピーカーと部屋の両方に存在する音響放射の問題を解決し、システム本来の再生能力を引き上げます。

ST2-HiFiの優位性 従来のEQとの決定的な違い

ST2は、周波数特性の補正において、従来のEQとは一線を画します。一般的なEQが主に音の強さ(振幅=レベル)の調整に特化しているのに対し、ST2は振幅と位相(時間軸)の両方を自動で最適化します。

「時間軸」の補正

私たちが日常的に「周波数特性」と呼ぶ概念は、多くの場合、特定の周波数における音の強さ(振幅=レベル)を示すことがほとんどです。トーンコントロールや一般的なイコライザーが主に対処するのは、この振幅の調整です。

しかし、「周波数特性」には、もう一つ、非常に重要な要素があります。それが「位相」、つまり「時間軸の概念」です。この位相特性の乱れや時間軸の歪みは、ステレオイメージや正確な音像定位を妨げる主要因となります。

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150Hzから上の位相を自動で補正します。
  • 位相特性の自動最適化
    ST2は、校正測定を最先端の時間周波数アルゴリズムで分析し、位相特性も自動で最適化します。これにより、音のバランス(音色)の補正とともに、「正しい時間領域機能」を達成できます。
  • 優位性
    位相補正は、特に約150Hzより上の帯域でスピーカーの群遅延(Group Delay)を大きく削減します。その結果、従来のEQでは得られなかった、ピントの合ったファントムイメージ(音像定位)と高解像度なステレオ音場を実現します。

3D測定マイクによる高精度な空間補正

ST2は、独自の専用3D測定マイクを使用します。これは、4つのカプセルを四面体形状に配置した構造を持っています。

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リスニングポイントに3Dマイクを設置
  • 高精度な位置特定
    このマイクにより、スピーカーの3次元的な位置(距離、方位角、仰角)を±2度以下の精度で特定します。
  • 音場リマッピング(Loudspeaker Positions Remapping)
    この測定情報に基づき、スピーカーが理想的な位置に置けない場合でも、ST2のソフトウェアが入力信号を再構築し、あたかも正しい位置に配置されているかのような音場を生成できます。
  • 実用的メリット
    音響パネルでの対策が困難な300Hz以下の低域のルームモードや、非対称な部屋での配置問題の解決に非常に有効です。

ST2による測定の実施と部屋の影響度の検証

ST2は、専用のマイクと「ウィザード(設定アシスタント)」機能により、初心者でも実用的な結果を得やすい、簡単な4ステップで行うことができます。

測定のステップ

実際の測定は、以下の手順で行われます。

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接続とマイク設置

ST2をシステムに接続し、専用の3D測定マイクをリスニングポイントの耳の高さに設置します。マイク正面の赤色LEDをサウンドステージ中央に向けます。

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レベル調整

テスト信号(ピンクノイズ)を出力し、マイクの受信レベルが73dBC程度となるようにMaster levelを調整します。

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キャリブレーション実行

メインキャリブレーションを実行します。各スピーカーごとにMLSバースト(テスト信号)が放射され、マイクがインパルス応答を記録します。

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補正値計算

測定完了後、ST2が補正値を計算し、5個セットのフィルター/プリセットを作成します。この計算には通常2~5分かかります。

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補正前後の周波数特性

Amplitude(振幅/周波数特性)は、リスニングポイントでの音色バランスを示し、Optimizerはこれを補正して音色をニュートラルにします。計測グラフでは、直接音と初期反射音を合わせた特性であるAmp(Direct)も確認でき、部屋の問題把握に役立ちます。

Phaseは、音波の時間的なズレ(位相回転)を表示します。位相がズレていると不安定なステレオイメージの原因となることがあります。Optimizerの標準モード(Amplitude + Phase)では、この位相特性も改善され、焦点の合った音像と高解像度のステレオ音場を実現します。

測定したデータに対して用途別に、5つのプリセットが保存されます。

各プリセットごとの周波数や位相の補正前、補正後のデータを可視化することができます。
参考までに、NATURAL(自然派)、PRECISION(精密派)の測定結果のグラフを載せておきます。

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ナチュラル(音色を維持したまま位相を整える)
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プレシジョン(位相特性を最大限改善)

補正前後のグラフを比較すると、部屋の定在波や反射の影響で発生していた特定の周波数帯域の大きなピークやディップが、ST2の補正によって平坦化されているのが一目瞭然です。

2つのモードでも周波数補正の仕方が違うのが興味深いです。

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ナチュラル
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プレシジョン

このグラフで比較すると、位相に対しても、プレシジョンの方がシビアに補正しているのがわかります。

スピーカーのキャラクター vs. 部屋の環境

色々なスピーカーで計測を行ったことがありますが、異なるスピーカーでも、スピーカーとリスニングポイントが同じ位置の場合、スピーカーの大きさが極端に変わらなければ、概ね同じような測定結果になることが多いです。

これは、スピーカーの周波数特性よりも、部屋の影響のほうが大きいと考えることができます。

ST2は、この「部屋」が作り出す歪みを除去することで、初めてスピーカー本来の持つキャラクターと性能を、その部屋で最大限に引き出すことを可能にします。

ST2を使いこなす:接続、モード、そして柔軟性

柔軟なシステムへの対応と接続オプション

ST2は、アナログ(XLR/RCA)およびデジタル(AES/S/PDIF)の入出力をすべて同時に使用でき、柔軟なシステム構築が可能です。

  • 標準的なアナログ接続
    最も一般的なのは、ST2をプリアンプとパワーアンプの間に接続し、アナログ入力、アナログ出力で信号を処理する方法です。
  • デジタルソースの活用
    デジタルソースのみを使用される場合、ST2のデジタル入力にソースを接続し、内蔵のD/Aコンバーター機能を活用して処理後のアナログ出力からプリアンプ(またはパワーアンプ)へつなぐ方法も可能です。ST2は新しいAD/DAコンバーターを搭載しており、オーディオファイル向けの要件を満たすよう設計されています。

自動プリセット機能と簡単な切り替え

一度測定(キャリブレーション)と計算が完了すれば、ST2は自動的に5つの連続したプリセットを作成し、これらのプリセットの切り替えやその他の設定変更は、その後簡単に行うことができます。ST2はユーザープリセットを最大29個まで保存可能です。

これらのプリセットは、ST2の持つ高度な最適化モードに基づいています。

最適化モードの種類(Optimizer Mode)

  • Amplitude + Phase (振幅 + 位相)
    周波数特性と位相特性の両方を改善し、ST2の性能をフルに発揮させる標準モードです。
  • Amplitude (振幅)
    振幅特性の補正のみが行われます。時間特性の最適化は行われないため、サウンドステージの再現性と安定性に劣る結果となる場合があります。
  • 自動生成される5つのプリセット:
スクロールできます
プリセット名主な特徴
NEUTRAL(中立的)デフォルトの設定。低域から高域まで平坦な周波数特性を目指します。
PRECISION(精密派)位相特性を最大限フォローし、より分析的視覚的なサウンドステージを実現します。
MONITOR(モニター志向)最大限フラットな周波数特性に補正し、録音現場のサウンドを最大限再現させます。
NATURAL(自然派)愛用スピーカーの音調を変えずに、位相や反射音を正しく整えたい方向けです。
COMFORT(寛ぎ型)普段はリアルなサウンドを追求しつつ、リラックスして聴きたいときのための優しいサウンドです。

イコライジング操作における注意点

デジタル領域でのブーストと歪みのリスク

EQで特定の周波数帯域のレベルを大きく増幅(ブースト)する場合、デジタル処理では歪みを引き起こすリスクがあります。ST2には過剰補正を防ぐための最大ブースト(Maximum Boost)と最大減衰(Maximum Attenuation)のパラメーターがあり、最大ブーストのデフォルト値は6dBに設定されています。これらの設定は任意に変更することが可能です。

ディップの限界

部屋の音波が干渉し合ってエネルギーが打ち消され、大きく落ち込んでいるディップが生じている場合、イコライジングで持ち上げようとしても、打ち消し合う症状を根本的に打開することは困難な場合があります。
しかし、膨らんでいる帯域(ピーク)や、部屋の特性で左右の環境が大きく違う場合の補正において、ST2のイコライジングのメリットは非常に大きいです。

まとめ ー 実際に使用した音の変化

本来は、特定の帯域に大きなピークがある、部屋の左右の環境が極端に異なるようなリスニングルームで、最大限の効果を発揮できると思います。

当店のリスニングルームは大きなピークはありませんが、中低域にディップがあり、低域の支えが出にくい傾向があります。ピークに比べると、音波が打ち消し合うことで起こるディップの補正は難しい傾向がありますが、それでも、組み合わせによっては明らかに中低域の支えがしっかり出たり、位相が整うことでフォーカスがより決まるような傾向があります。

イコライザーは内部でデジタル処理を行います。
せっかく高性能なDACを使っているのに、イコライザーのD/AおよびA/Dが脚を引っ張るのではないかと考える方もいるかもしれません。
MK2モデルは、このD/Aの部分が強化されています。

イコライザーを通すことで起こるわずかなデメリットと、部屋の特性を改善できる大きなメリットを比較して検討されるのが良いと思います。

ST2は、従来のイコライザーが苦手としてきた「時間軸の歪み」と「空間の位置情報」を最先端のアルゴリズムで制御することで、リスニングルームの音響問題を解決します。

ご興味のある方は、お気軽にご相談ください。

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