U-BOYです。
Wilson Audioの伝説的スピーカー、The WATT/PUPPYが復活しました。デモ機をお借りする機会に恵まれましたので、早速試聴レポートをします。

今回のモデルは単なる復刻ではなく、現代の技術を結集して創業者デイヴ・ウィルソンの理想を追求した「リマスター」版です。
Wilson Audio創立50周年という記念すべき年の発表であることからも、同社の「WATT/PUPPY」に対する並々ならぬ思い入れが伝わってきます。
WATT/PUPPYについて
Wilson Audio Tiny Tot (WATT) は、1985年から1986年にかけて登場しました。
当初は、一般消費者向けの製品としてではなく、創業者でありレコーディングエンジニアでもあったデイヴィッド・A・ウィルソンが、自身のレコーディング現場で使用するための、ポータブルなスタジオモニターとして開発されました 。
システムシリーズの登場
1989年、WATTは「Puppy」と名付けられたベースモジュールと組み合わされることで、専門的なモニターから一般市場向けのフルレンジシステムへと変貌を遂げました。この2ボックス構成は、当時のトールボーイスピーカーが主流だった市場に衝撃を与え、新たなデザインの潮流を築きました。
WATT/Puppyは、1986年から2011年にかけて、いくつかのバージョンへと進化を遂げています。
シルエットは一目でウィルソンのそれとわかるものの、初代モデルと互換性のある部品は一つとして存在しません。これは、素材、ドライバー、クロスオーバー設計における継続的な進化を証明しています。
この進化の過程で、WATT/PuppyはWATT3/Puppy2から始まり、System 5、System 6、System 7、そしてSystem 8へと、数々のバージョンアップを重ね、日本のハイエンドオーディオ業界もリードしてきました。
WATT/Puppyの系譜は、その後Sasha W/Pシリーズへと引き継がれました。
WATT/PuppyシリーズのWATTは、元々単体でモニターとして使用できるよう、クロスオーバーネットワークを内蔵しています。
しかしSashaシリーズからは、クロスオーバーが下部のウーファーモジュールに統合されたため、上部モジュールを単体で使用することはできなくなりました。
時間領域調整可能な2ボックス構成というコンセプト自体は、現行のフラッグシップモデルに至るまで受け継がれています。今回の新しいThe WATT/PUPPYの復活は、単なる新モデルの追加ではなく、ブランドの原点回帰とも言える意義深い製品と言えます。
システムシリーズは代を重ねる毎に少しずつ大きくなりました。

往年のWATT3/Puppy2を連想すると、今回のThe WATT/PUPPYは一回り大きく感じるかもしれませんが、そのサイズ感や搭載技術から、実質的にはSystem8の正統後継という位置づけのほうがしっくり来るかもしれません 。
技術的特徴
ここでは、最新モデルThe WATT/PUPPYの技術的特徴を紹介します。
エンクロージャーについて
Wilson Audioの哲学の核心は、独自の複合素材を用いて音響的に不活性な(鳴きのない)キャビネットを創り出すことです 。
- X-Material: 高い剛性を誇り、メインエンクロージャーや内部の補強材として使用
- S-Material: WATTモジュールのフロントバッフルに採用され、ミッドレンジドライバーとの最適なカップリングを実現
- V-Material: 比較的新しい革新的な素材で、Puppyの天板に使用される。WATTモジュールとの接点として機能し、振動を吸収・減衰させる「シンク」の役割を果たす。これは2つのキャビネットを効果的に分離するための重要な要素である
さらに、デザイン面では、より人間工学に基づいた形状に刷新されたリアハンドル や、正確な設置を可能にする水準器内蔵の調整式スパイクシステム など、細部にわたる改良が施されています。
ドライバー構成はSasha Vの心臓部を継承

このスピーカーの最も重要な技術的特徴は、上位モデル、Sasha Vと全く同じドライバー構成を採用している点です 。
- ツイーター: Alexx Vで初めて採用された1インチのConvergent Synergy Carbon (CSC) ツイーター。コーティングされたテキスタイルドームで、直線性と低歪みを実現するために設計された、自社製の3Dプリント製リアウェーブチャンバーを備えた密閉型ユニット。
- ミッドレンジ: 7インチのAlNiCo(アルミニウム-ニッケル-コバルト)QuadraMagミッドレンジドライバー。正確な音色、速い応答性、そして「音の美しさと豊潤さ」を実現 。モーターシステムに4つの強力な磁石を使用。
- ウーファー: リアポート付きのエンクロージャーに収められた、Sasha Vのベースモジュールと同じ2基の8インチウーファー。処理されたセルロース複合材コーンを採用。
クロスオーバーと時間領域の整合性
異例のクロスオーバー周波数: ミッドレンジからツイーターへのクロスオーバー周波数が1.3kHzと、業界標準よりもかなり低く設定されています。
これは、採用されたツイーターの並外れた広帯域性能によって可能になったもので、よりシームレスで位相ずれの少ない自然な繋がりを目指す、競合他社とは一線を画す設計思想です。
高域の再生限界を追求するよりも、ミッドレンジとの自然なつながりを最優先するWilson Audio一貫したポリシーです。
コンデンサー技術: Wilson Audioが自社で製造する新しいAudioCapX-WA銅コンデンサーを採用。銅のエンドスプレーとゴールドのリード線を特徴とし、低レベルの解像度を高め、微細なディテールを驚くほどの明瞭さで再現するように設計されています 。
調整可能なタイムアライメント: WATTモジュールの背面にある調整可能なスパイクは、Wilson Audioのハイエンド設計の象徴であり、極めて重要な機能です 。このスパイクの長さを変えることでWATTモジュールを前後に傾け、特定のリスニングポジションに対してツイーターとミッドレンジドライバーの音響的中心を物理的に時間整合させることができます。
実際の音の印象

当店では、SASHA DAWを以前に常設しておりました。
Systemシリーズも何度も扱っています。
以前のシステムシリーズは、高域に独特のアクセントがあり、ピンポイントで音像が定位する感じや、スピーカーが消える3次元的な表現、コンパクトなサイズにもかかわらず弾むようなエネルギーのある低域によって、多くのユーザーから支持されました。
後期、特にシステム8あたりは、そのキツい表現が緩和されて、素直でニュートラルなバランス表現になりました。以前のモデルが持っていた高域表現を好む方と、新しいモデルの表現を好む方とで、この辺りから評価が分かれる傾向がありました。
この傾向はSASHAシリーズ以降も引き継がれており、伸びやかで雄大な音になったと感じます。
当店には海外の著名なスピーカービルダーの方々もお見えになりますが、「あなたの競合は?」と尋ねると、真っ先に名前が挙がるのがWilson Audioです。現在も世界のハイエンド・スピーカーの代名詞として君臨していると言っても過言ではないでしょう。日本での知名度以上に、海外では高い評価を得ています。
新作のThe WATT/PUPPYも現在のウィルソン・オーディオの流れをくむサウンドです。
必要十分な情報量があり、低域は、ややふくよかな量感を持ちつつ、程よいスピード感を両立しています。全体的に音の密度感があり、特に中域の厚みは聴き応えがあります。SASHAシリーズよりも凝縮感があるように感じられます。
セッティングも以前より寛容で鳴らしやすくなりました。
いくつかのアンプで組み合わせておりますが、アンプの素性も素直に表現します。
バランスが良く、音楽の対応幅も広いスピーカーです。
