YG ACOUSTIC Vantage3 LIVE は、アメリカのYG ACOUSTICSとBel Canto Design、そしてイギリスのケンブリッジ・アコースティック・サイエンシズ(以下CAS社)のコラボによって開発されたアクティブスピーカーで、専用に設計されたDSPコントローラー搭載のDACプリアンプで操作し、あとは上流機器をつなぐだけというオール・イン・ワンのシステム構成となっています。
こうしたアクティブ・スピーカーやオール・イン・ワンのシステムは従来のオーディオファン層にあまり浸透しておりませんが、録音現場やマスタリング作業を行うエンジニアらなどPRO機業界では、現在アクティブスピーカーがほぼ主流となりつつあります。
スピーカーメーカー側としても、ユニットやキャビネット特性に最適化されたアンプ設計ができるただけでなく、意図した再生音をピンポイントで追い込めるというメリットがあります。特にアンプ出力がドライバーユニットに直接接続され、信号経路にクロスオーバー部品も存在しないため利点は非常に大きく、アナログ・クロスオーバーのインダクター、コンデンサー、抵抗などを取り除くことの効果は絶大です。さらにこのクロスオーバー回路の開放は、設計者が指定するスロープと位相の特性を持つことができます。またDSPクロスオーバーでは、リニアではないドライバーの挙動を補正するために小さなレスポンス変化をプログラムすることも可能で、アンプ設計者は全く未知の条件下で動作する汎用アンプを作るのではなく、ドライバー特性に正確に合わせたアンプ回路を設計することができます。
先述のCAS社は音楽学PhDを持つ者を含むPhD取得者たちによって設立され、さまざまな分野の計算モデリングにおける最先端の専門知識を生かし、それを音響設計とスピーカー工学に応用。
ラウドスピーカー性能を数学的にモデル化し、さまざまなリスニングルームや家具レイアウトの数学的モデルを個別に作成し、それを300以上のルームモデルのいずれかに「配置」する能力を開発。これらのモデリング作業は非常に計算量が多くなるため、スーパーコンピューターとクラウドコンピューティングでしか実現できないそうですが、その結果得られたデータを開発指針としているそうです。
同社の共同設立者であるマシュー・ウェブスター博士は、宇宙の大規模構造のモデル化に関する宇宙物理学の博士論文を執筆する傍ら、YGのスピーカーを長年愛用し、音楽をこよなく愛するオーディオファイルでもあるようです。
専用コントローラー(DACプリ部)は、幅広い機能とセットアップ・オプション提供。”Tilt “コントロールでは、775Hzをヒンジ・ポイントとして、0.6dBステップでベース・カットとトレブル・ブースト、またはベース・ブーストとトレブル・カットを行い、トーン・バランスを微妙に変化させることができます。またBass EQ “調整では、低音レベルを0.6dBステップで±3dBまでブーストまたは減衰させることができます。Vantage Liveをサブウーファーで補強する場合は、2次ハイパスフィルターをかけることで低音をVantage Liveから遮断することができます。
入力はデジタルがAES (XLR)、 SPDIF (BNC)、 TOSLINK、 USB、Ethernetの5系統、アナログは、RCA×2、Phono( MM: 2.5mV to 5mV; MC: 0.25mV to 0.5mV)。UPnPとRoon-readyに対応しており、削り出しの金属製リモコンでバランス調整を含む完全なシステム制御が可能です。またUSB-Aポートを搭載し、ポートに接続したハードディスク・ドライブに保存された音楽にアクセスできます。スピーカーとコントロール部は、STタイプの光ケーブル2本で接続します。
スピーカーに内蔵されたカスタム・アンプはBel Canto Design製で、3つのユニットそれぞれに700Wもの駆動力があるパワフルなアンプを搭載。スピーカー1本あたり合計2100Wのトリアンプを搭載していることになります。さらに先進的なDSPクロスオーバーにより、スーパーコンピューターとクラウドコンピューティングリソースを使用して最適化された複雑なマルチドメイン物理学と音響モデルを組み合わせ、膨大なリスニング環境モデルケースに基づいた調整がされています。
さて音のほうですが、とりあえず必要な各配線をしてラフに設置しただけの状態で鳴らした瞬間、呆気に取られるほどよく鳴っているのが印象的でした。従来のYGは良く言えばつないだアンプ、ケーブルの特長を即座に描き分けますが、悪く言えばそれが峻烈すぎるあまり、リスナーが好む音楽ジャンルや、音源が録音された時代やその状態によっては好き嫌いがハッキリしてしまうほど、鳴らすアンプやつなぐケーブルに左右されてしまうような神経質さが滲じむ傾向が強くありました。また独自開発のユニットも楽に鳴らせるといったタイプではなく、場合によっては気難しさやピーキーさが目立つこともしばしばでした。
ところがLIVEシリーズは、そうした組み合わせの難しさが一気に払拭され、清々しいほどスカッと鳴ってしまう印象です。おそらく専用に作られた独自のDSP機能やアクティブならではの専用設計アンプが齎す恩恵が、意気軒昂な鳴りっぷりと音に非常によく現れているのではと感じます。
現時点では代理店から本システムをお借りできる期間だけの試聴となりますが、代理店の社長の方も「内蔵フォノの音も良く評判なので、是非このモデルのコントローラーに搭載されている機能はいろいろ試してもらう価値がある」と何度も力強く話されていました。