U-BOYです。
MSBのCascade DACをお借りしましたので、レポートします。
2024年に発表したCascade DACは、同社の技術の集大成として位置づけられる最高峰のD/Aコンバーターです。
前フラッグシップモデルのSelect DACを超える性能を目指して開発され、妥協のない設計思想と最新技術の結晶として生まれた製品です。
本機の最大の特徴は、デジタル処理部、アナログ変換部、電源部を完全に分離した3シャーシ構成にあります。
MSB – Cascade DACについて

Select DACから進化した点
主に以下の点が挙げられます。
- デジタル処理能力が4倍に向上(新開発のDSP/FPGA構成)
- 3シャーシ構成による完全分離設計(Select DACは2シャーシ ※1 )
- 新開発のCascade-Link光伝送システムの採用
- 最新のHybrid DAC MKIIモジュールの搭載
- より高度な電源供給システムの実装
※1 Select DACもSelect Digital Directorを追加できます。
製品概要 – 理想を追求した3シャーシ設計

Cascade DACは、デジタルオーディオの理想を追求するため、それぞれの機能を完全に独立させた3シャーシ構成を採用しています。各部門での相互干渉を徹底的に排除し、理想的な動作環境を実現しています。
以下、各シャーシの特徴と役割について紹介します。
Digital Director(デジタル処理部)
システムの頭脳として機能するDigital Directorは、最新のデジタル処理技術を結集しています。


- 2基の高性能DSPと2基の専用FPGAによる圧倒的な演算処理能力
- 様々なデジタルフォーマットに対応する柔軟な入力部
- 独自開発の光学式Cascade-Linkによるノイズレス伝送
Analog Converter(アナログ変換部)
システムの心臓部として、デジタル信号から最高品位のアナログ信号を生成します。


- 8個の最新Hybrid DAC MKIIモジュールによる超高精度変換
- Femto 33 MKIII クロックによる極めて低いジッター
- DACで変換された信号は、アンプを通さず直接出力
- CPUなどのノイズ源となるデジタル処理回路が無いため、専用のプリアンプのようなアナログ信号純度
Powerbase(電源部)
システム全体を支える電源部は、理想的な電力供給を実現します。

- 3基の特注トランスによる潤沢な電力供給
- 高度なACフィルタリング技術
- Swiss Fischer Connectorsとの共同開発によるSummit Cable
核となる技術革新
Cascade-Link技術
デジタル部とアナログ部を完全分離するために開発された光伝送システム。最新のダイオードレーザー技術により、ノイズフリーで高帯域なデータ伝送を実現しています。デジタル回路からのノイズ干渉を完全に遮断し、純粋なアナログ信号の生成を可能にしています。
Select DAC + Select Digital Directorの場合は、Pro ISLケーブル(シングルモードレーザー光ファイバー)とコントロールリンクTOSLINKケーブルの2本を使用していましたが、Cascade-Linkは、ファイバーケーブル1本で伝送を実現しています。
Hybrid DAC MKII
MSB独自のフルバランス、ディスクリートラダーDAC方式を採用。Select DACから更に進化し、従来比4倍のデータ帯域幅を実現。より低ノイズで高解像度な音楽再生を可能にしています。
音質について
ファイル再生および、ディスクプレーヤーを使用して試聴しました。
ファイル再生はRoonを使い、イーサネット、ProUSB入力で比較し、ProUSBを選択。
ディスク再生は、CH Precision – D1.5 player Zephyrn EditionからAES-EBU接続、Cascade DACをマスターとしてクロックケーブルも接続しています。
DACのボリュームは100固定です。
試聴で使ったシステム
- SP: Magico – M7
- Roon Server: Ediscreation BACH JP MODEL
- CD: CH Precision – D1.5 player Zephyrn Edition(トランスポートとして)
- AMP: CH Precision – L10 & M1.1
- ソフト: Roonを使用。音源はBachのストレージに内蔵しているもの、Tidal、Qobuzを使用
入力による音質差
Digital Directorは、自動で信号が入った入力に切り替わります。
例えば、ディスクを再生すれば、AES/EBU入力に、(ディスク再生を止めて)、Roonを再生すればProUSB入力へ切り替わります。選んだ入力が再生中の場合は、他の入力に切り替わりません。
※イーサネットのRoon Readyの場合は強制でイーサネットに切り替わります。
1. ファイル再生
先日紹介した、TAIKO AUDIOのExtreme Routerおよび、Extreme Switchも使用しています。
このネットワーク環境で、イーサネットと、ProUSBの差を比較しました。

“Pro USB”は、USB オーディオの電気的信号をMSB 独自の”Pro ISL”方式による赤外線レーザー光に変換。PC やNAS などのUSB オーディオサーバーとDAC との間で完全アイソレーションを図り、かつ完全同期による究極の低ジッター化/高精度化を果たす画期的な新USB 伝送アダプターです。
TAIKOのネットワークを持ってしても、イーサネットよりもProUSBの方が情報量が多いと感じました。これは以前のMSB製品で感じた差と変わりません。イーサネットはProUSBと比較するとわずかに甘くなります。
以降の試聴は、ProUSBを中心に行いました。
※ProUSBの場合でも、ネットワーク環境の影響は受けます。TAIKO AUDIO – Extreme Routerの有り/無しの差はしっかりと反映されました。
2. ディスク再生
MSBは現在トランスポートを生産していません。
ディスク再生は他社のトランスポートを使う必要があります。

今回の試聴機は、オプションボードとして、AES/EBU デジタル入力(Word-Sync BNC Output付)が装着されていましたので、常設している、CH Precision – D1.5 player Zephyrn Editionを使用しました。
AES/EBUに加えて、クロックケーブルもつないでいます。
同一音源で、先程のProUSBとディスク再生を比較してみました。
音の厚みや、メリハリはディスクの方がありますが、わずかに音場は狭くなる印象を受けました。
伝送方式としては、Pro ISLの優位性はあると思いますが、ディスク再生のクオリティも相当高いです。
デモ中のMagico M7の再現力も相まって、ボリュームを絞ったときでも情報量が減らないのは見事です。
音質傾向
MSB製品は純粋なプリアンプとしても使用できます。
ボリュームは106までありますが、100の値が通常のゲイン固定のイメージで、101-106はDACのプリアンプ側で増幅しています。試聴はボリューム100にして、L10のボリュームを使いました。
最近の製品の中ではゲインは低い方で、他社のDACと比較する際は、プリアンプL10のボリュームを5-6くらい上げて音量を整えて比較しました。
静かで落ち着いていて、俯瞰して客観的に全体を見渡しているようです。
特定のアクセント付けたり、輪郭を際立たせることで解像度が高く感じさせるような製品と違い、淡々としていながらも圧倒的な情報量です。余計な演出を排し、音楽本来の姿を浮き彫りにします。
ひずみ感がないので、音量を上げてもうるさくなりません。特に合唱曲や交響曲など、音数が多い音源での描き分けは見事です。音源の不得手も無いと思います。
PCM音源からDSDに切替時に大きめなブツ音がでることがあります。この点だけは改善してほしいと感じました。
(この現象は、DSDネイティブ再生時のみ発生します。DoPでは問題なさそうです。)
MSB – Cascade DAC まとめ
- 3シャーシ構成による完全分離設計で、デジタル/アナログ/電源の相互干渉を徹底排除
- 新開発のCascade-Link光伝送システムにより、高品位なデジタル伝送を実現
- 最新のHybrid DAC MKIIモジュールと高度な電源供給システムによる卓越した音質
- 特定の傾向に偏ることのない、普遍的で自然な音質表現
- 圧倒的な情報量と優れた分解能で、様々なジャンルの音楽を高い次元で再生
- オプション入力も備え、使用環境に応じて柔軟に対応
現代のデジタルオーディオの1つの到達点を示す製品です。
ご興味のある方はぜひお問い合わせください。